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山口一生

みかん園を次の人へ|後継者探しと事業承継で使える制度・窓口ガイド

この記事の要旨

太良町のみかん農家から「後継者探しに苦戦している」という相談を受け、農の雇用のその後を含めた国の制度、佐賀県・太良町の独自支援、資産引き継ぎの注意点、動く手順と相談窓口をまとめた実用ガイド。

要点3つ

  • 「農の雇用事業」は令和3年度で募集終了し、現在は「雇用就農資金(年最大60万円×最長4年)」等へ移行しています。
  • 国の制度は「親元就農」や「自営独立」に手厚い一方、「他人の園地をそのまま引き継ぐ第三者承継」は単独の専用制度が乏しく、複数の制度を組み合わせる工夫が必要です。
  • 園地を手放したい農家が今すぐできることは、①園地の棚卸しと家族会議、②名義(相続登記)の確認、③「太良町みかんづくり活性化協議会」への登録です。

はじめに|このガイドをまとめたきっかけ

地元のみかん農家の方から、切実な相談をいただきました。

「いま後継者探しに本当に苦戦している。自分が元気なうちに園地を次の人に渡したいが、どこに相談してどう動けばいいのか分からない。『農の雇用』や、何か使える補助金や仕組みはないだろうか」

太良町のみかん園は、多良岳の斜面を活かした階段状の美しい畑が広がっています。しかし、みかん園は「1枚荒れると、隣の園地が道連れになる」という厳しい現実があります。

手入れが途絶えた園地には病害虫が発生し、イノシシなど鳥獣の温床になり、大雨で斜面が崩れれば下段のみかん畑まで押し流してしまいます。つまり、誰にも引き継がれずに放置される園地が1枚出るだけで、地域一帯の生産基盤が傷んでいくのです。

2020年農林業センサスによると、太良町の農業経営体567のうち、「5年以内に引き継ぐ後継者がいない」農家は443(約78%)にのぼり、経営主が60歳以上の農家は397を占めています。 一方で、10年後の農地の使い方を描く「太良町地域計画」の意向調査では、伊福地区で28ha、大浦地区で10haの「手放したい意向」に対し、担い手側からはそれを上回る面積の「引き受けたい意向(大浦で170haなど)」が出されています。

ただし、この「引き受けたい意向」は日当たりや作業性の良い園地を前提にしていることが多く、すべての園地が自動的に引き継がれるわけではありません。 足りていないのは、「具体的にどの園地を、誰に、どういう条件とお金の手当てで引き渡すか」という丁寧なマッチングと制度の組み立てです。

国の最新制度(令和8年度時点)から佐賀県・太良町の独自支援までを整理し、農家の方やご家族が手元で読める実用ガイドとしてまとめました。


1. まず誤解を解く:「農の雇用」と国の現行制度

相談の中でよく名前が挙がる「農の雇用事業」ですが、実は令和3年度(2021年度)で募集終了しています(農林水産省公式)。

現在は、後継となる新しい制度体系へ移行しています。

主な国の制度

制度名実施主体性格内容と留意点(令和8年度)
農の雇用事業農林水産省雇う側への助成令和3年度で募集終了(新規募集なし)
雇用就農資金
(後継制度)
一般社団法人
全国農業会議所
雇う側への助成金(返済不要)実施中。年最大60万円(月5万円)×最長4年(新法人設立は年最大120万円×4年)。
※補助額に対し、給与・社会保険等で年間250万円前後の人件費負担が生じます。
就農準備資金都道府県・公社研修生本人への給付実施中。年間最大165万円×最長2年。
※常勤の雇用契約(給与)があると受給できません。
経営開始資金市町村(太良町)独立就農者への給付実施中。年間最大165万円×最長3年(自営・主宰権を持つことが要件)。
※雇用就農資金を受けた人は過去に遡って対象外になります。
世代交代・初期投資促進事業農林水産省後継者への設備助成令和7年度補正予算事業。国費上限600万円(機械・施設導入、修繕等)。
★先代農家との共同申請が可能。※経営開始資金との併用は不可。単年度予算。
青年等就農資金日本政策金融公庫就農者本人への無利子融資実施中。限度額3,700万円(特認1億円)、全期間無利子(償還最長17年)。
※農地の取得費には使えません。

2. 太良町と佐賀県ならではの支援と地域データ

国の制度に加えて、太良町や佐賀県の支援策、地域の数字を押さえておくと交渉や計画が立てやすくなります。

① 太良町「さが園芸888整備支援事業」の町独自上乗せ(自己負担4割)

佐賀県の「さが園芸888事業」に対し、太良町は独自要綱(訓令第25号)で町費を上乗せしており、対象経費の3/5(60%)以内を補助しています(自己負担は4割)。 さらに「新規就農者育成対策」に該当する場合は上限3,900万円の別枠扱いが可能です。園地のリノベーション、スプリンクラー等の配管改修、運搬機・防除機の導入、苗木の改植などに極めて強力な武器になります(※県単独事業としては令和8年度が最終年度のため、活用は早めの相談が必要です)。

② 太良町「経営発展支援事業費補助金」(町訓令第44号)

国の新規就農者育成総合対策に合わせ、太良町では機械・施設導入等に対し、県支援分の2倍を国が支援する仕組みに加え、町独自に事業費の3/4以内(上限1,000万円)を補助する枠組みを設けています。

③ 太良町「親元就農支援事業給付金」の現状と課題

太良町には若手就農者に年間36万円を5年間(計180万円)給付する独自制度があります。 現行の要綱(訓令第30号)では対象が「町内で農業を営む者の2親等以内の直系卑属」に限定されており、現状では第三者承継は対象外です。 ※要綱第3条第3号には「ただし、町長が特に必要と認める場合はこの限りでない」という特認規定がありますが、これは実務上、養子や子の配偶者等を想定したもので、血縁のない第三者への適用前例はありません。町議会としても「後継者不足が深刻化する中、第三者承継にも同額の支援を拡充すべき」と政策提言を続けていくべき重要課題です。

④ 佐賀県「さが暮らしスタート支援金」(移住支援金)

町外や県外(東京圏等)から新たな後継者候補を迎える場合、移住支援金が生活の立ち上げを助けます。

  • 2人以上の世帯:100万円
  • 単身:60万円(18歳未満の帯同者加算あり)

⑤ 太良町の樹園地地代相場(平均3,276円/10a)

太良町農業委員会が公表している賃借料情報(令和7年締結分・25筆)によると、太良町の畑(樹園地・ミカン)の平均賃借料は【3,276円 / 10a】です。 普通畑(約1万円)や水田(約8,200円)の約1/3と非常に安価です。1ヘクタール(100a)借りても年約3万3千円。後継者は農地を無理に買い取らず、「借りる」ことで就農初期の借金を劇的に抑えられます。(※ただし条件の良い成園であれば、お互いの合意でもう少し高めに設定しても十分成り立ちます)。

⑥ 太良町みかんづくり活性化協議会(令和8年4月発足)

JA系統や商系の枠組みを越えて、生産者主導で立ち上がった組織です。

  • 園地継承パンフレット「つなごう、樹と想い」: やめる予定の園地を第三者へ継承する意向を事前登録する仕組みです。
  • 就農フェア出展(令和9年1月17日): 佐賀市(グランデはがくれ)で開催される「就農応援フェア in さが」に太良町協議会が出展します。後継者を探している農家にとって、県内外の希望者へ園地をPRできる貴重な機会です。

3. 3つの承継ルートと現実的な突破口

「園地を引き継ぐ」形は、大きく3つに分かれます。

  • ルートA:家族の中で継ぐ(親元就農)
  • ルートB:第三者に譲る・貸す(直接マッチングによる経営移譲)
  • ルートC:雇って育ててから、いずれ継ぐ(雇用就農から独立へ)

実は国の制度は「ルートA(家族内)」や「ゼロからの新規参入」に手厚く作られており、「他人の農家に雇われて修行し、そのままその園地を引き継ぐ(ルートC)」に直結する単独の専用制度は存在しません(給与をもらいながら準備資金を受け取ることはできず、雇用就農資金を受けた人は独立後の経営開始資金が使えないなど、制度の谷間があります)。

そこで、太良町のみかん農家が外部から後継者を迎える現実的な突破口として、以下の選択肢が考えられます。

現実的突破口①:「地域おこし協力隊(承継型)」の活用

みかん先進地で成果を上げている手法です。

  1. 町の協力隊として採用: 人件費や活動費に国の特別交付税措置(1人あたり上限550万円)が使われます(※町の予算化と議決が必要なため、募集開始から着任まで半年〜1年かかります)。
  2. 園地で最長3年間修行: 隊員として給与を得ながら、親方農家のもとでみかんの栽培技術や園地の癖を学びます。
  3. 卒隊時に承継: 総務省の起業・承継支援(上限100万円)や、後継制度の設備補助等を活用して園地を引き継ぎます。

現実的突破口②:「雇用就農資金」+「世代交代事業」の共同申請リレー

  1. 雇用して育成: 雇う側の農家が「雇用就農資金(年最大60万円)」を活用して見習い雇用(※人件費の持ち出し差額を想定しておく必要があります)。
  2. 経営移譲時: 親方農家と後継者が共同で「世代交代・初期投資促進事業(国費上限600万円)」等を申請し、老朽化した機械や施設の更新資金を手当てして引き渡します。

4. 資産引き継ぎと税金の落とし穴(実務上の注意点)

園地や機械を引き渡す際、お金の扱い方を間違えると後で税務署や家族との間で大きなトラブルになります。

① 「農地は借りて、設備だけ適正価格で買い取る」

後継者に農地そのものを買い取らせようとすると数百万〜数千万円の借金を背負わせることになります。

  • 農地は「貸す」: 農地中間管理機構(農地バンク)経由で貸せば、貸し手には賃料が確実に入り、固定資産税をまかなえます。
  • 機械・道具は「時価」で売買契約を結ぶ: 軽トラ、運搬機、防除機などは、税理士や農機具店に時価を確認したうえで売買契約書を作ります。時価より極端に安く譲ると「みなし贈与」として後継者に贈与税が課されるリスクがあります。
  • 分割払いにしても税金は一括でかかる: 個人には代金を年ごとに分けて計上する仕組み(延払基準)がありません。代金を分割で受け取る約束にしても、売却した年に全額課税されます。
  • 技術指導料は実態に見合う金額で別契約: 指導を頼む場合は、実際の労働に見合う妥当な金額で契約を結びます(※年金受給者の場合、指導料収入が増えると国保税や介護保険料に影響することがあります)。
  • 「出荷枠」の売買はできない: JAの共販には売買できる「出荷枠」はありません。組合員になれば出荷できます。価値があるのは、長年培った独自の直販ルートや贈答用顧客名簿です。

② 第三者へ農地を売る場合の特別控除

農地を第三者へ売却する場合、農地中間管理機構(農地バンク)へ譲渡すると譲渡所得から800万円の特別控除(租税特別措置法第34条の3)が受けられます。手取りを守るために必ず税理士へ確認してください。 (※農業の「事業承継税制(納税猶予)」は子ども等の推定相続人への一括贈与が基本であり、第三者承継には使えない点に注意が必要です)。

③ 借入金・連帯保証・賦課金の確認

園地を引き継ぐ前に、以下の負担関係を必ず洗い出してください。

  • 園地にJAや公庫の担保(抵当権)が残っていないか
  • 先代の農業近代化資金等の残債や連帯保証はどうなっているか
  • 土地改良区や防除組合(スプリンクラー管理等)の年間の維持費・賦課金はいくらか

5. 今日から動く順番(チェックリスト)

後継者探しは、いきなり制度を調べるよりも「自分の足元を固める」ことから始まります。

① 家族会議を開く

「園地を第三者に託したい」という方針について、配偶者や子ども(相続人)の合意を必ず取ります。貸借契約を結んだ後も、契約は相続人へ引き継がれるため、家族の納得が第一歩です。

② 園地の棚卸し(仕分け)をする

持っている園地をすべてリストアップします。

  • 道が良く、水があり、引き継いでもらいやすい「良園地」
  • 急傾斜や狭小で、引き受け手がつきにくい「難しい園地」 ※意向調査で引き受け手が多いのは良園地です。全部を無理に抱き合わせず、まずは良園地から切り出します。

③ 相続登記が完了しているか確かめる

令和6年4月から相続登記が義務化されました。先代の名義のままでは農地バンクで貸すことも売ることもできません。

④ 技術や作業の記録をまとめる

園地ごとの剪定方針、防除履歴、施肥のタイミング、スプリンクラーのバルブ位置などをノートに残しておきます。

⑤「太良町みかんづくり活性化協議会」へ相談する

園地継承パンフレットの申出票を提出し、園地の広さ・樹齢・希望条件を登録します(令和9年1月17日の「就農応援フェア in さが」での紹介案件として乗せてもらうため)。

⑥ 役場(農林水産課)へ相談に行く

  • 地域計画の目標地図に載せられるか
  • 地域おこし協力隊(承継枠)の募集が検討できないか
  • 空き家バンクや町営住宅の空き状況はあるか

6. 太良町周辺の相談窓口一覧

迷ったら、まずは以下の専門窓口へご相談ください。すべて無料で相談できます。

太良町役場

  • 太良町役場 農林水産課(農政係)
    • 電話: 0954-67-0315(役場2階)
    • 担当: 地域計画、認定新規就農者、各種補助金、地域おこし協力隊の相談
  • 太良町 農業委員会
    • 電話: 0954-67-0316
    • 担当: 農地の貸借(農地法3条・農地バンク)、賃借料相場、名義確認

地域の推進組織・JA

  • 太良町みかんづくり活性化協議会
    • 電話: 0954-67-0315(農林水産課内) / 0954-62-2145(JAさが杵藤園芸センター内)
    • 担当: 園地継承パンフレット登録、就農フェアでの後継者募集連携
  • JAさが たら支所(営農課)
    • 電話: 0954-67-0033
  • JAさが 大浦出張所
    • 電話: 0954-68-2211
  • JAさが 杵藤園芸センター(園芸指導課)
    • 電話: 0952-84-5112
    • 担当: みかんの技術指導、出荷基準、JAトレーニングファーム(研修受入)

佐賀県・公庫・専門機関

  • 藤津農業振興センター(佐賀県杵藤農林事務所)
    • 電話: 0954-62-5221(鹿島市)
    • 担当: 太良・鹿島地域の農業技術指導、普及指導員による営農支援の総合窓口
  • さが農業経営・就農支援センター(一般社団法人 佐賀県農業会議内)
    • 電話: 0952-20-1810(佐賀市八丁畷町8-1 佐賀総合庁舎4階)
    • 担当: 第三者承継の専門相談。「経営移譲カード」の受付、専門家無料派遣
  • 公益社団法人 佐賀県農業公社(就農支援部・農地中間管理機構)
    • 電話: 0952-20-1590(鹿島駐在所: 0954-69-1600)
    • 担当: 農地バンクの貸借手続き、県外からの新規就農相談
  • 日本政策金融公庫 佐賀支店(農林水産事業)
    • 電話: 0952-24-4195(佐賀市駅前中央1-10-37)
    • 担当: 青年等就農資金(無利子融資)、スーパーL資金

おわりに

園地を手放したい農家も、これから農業に挑戦したい若手も、一番不安なのは「お金のこと」と「将来のこと」です。

現状の国の制度は、親族内の承継やゼロからの新規参入に手厚い反面、「他人の園地をまるごと引き継ぐ第三者承継」については、まだまだ制度の谷間に置かれているのが実情です。 しかし、だからこそ諦めるのではなく、太良町の手厚い園芸補助や農地バンク、地域の活性化協議会をうまく組み合わせながら、知恵を絞っていく必要があります。

大切なみかんの樹と長年耕してきた土を次の世代へ手渡していくために、まずは一歩、ご家族での話し合いと役場・協議会への相談から始めてみてください。私も町議会議員として、個別の相談や制度の改善に全力で伴走します。


※本記事の内容・制度・補助金額は令和8年(2026年)9月時点の公表資料および太良町例規に基づいています。国の補正予算や要綱改定等により要件が変更される場合がありますので、申請にあたっては各窓口で最新の情報をご確認ください。

テーマ みかん園の事業承継・後継者確保
対象地域 太良町